7月10日ドラえもん感想~これだけは語りたい「スイカ割りにスイカペン」~

さかのぼっての更新になりますが、10日のドラえもんについて、どうしても書きたいことがあったので、感想を更新させてください。

この週、多くの方は3話めの「タマシイムマシン」に描かれた、のび太とママの親子愛に胸を打たれたことでしょう。

 

が、あえて言いたい。

この回、見るべきは「スイカ割りにスイカペン」だと。

 

「スイカ割りにスイカペン」

おそらくアニメオリジナル*1

まずは流れを追ってみましょう。

 

1流れ

1.1のび太の狂気とドラえもんへの伝染

まず、冒頭から悲しげなBGMに乗せて、幼少期の「スイカ割りでジャイアンが割ってしまい自分は割れなかった想い出」を語るのび太「ぼくの番は、回ってこなかった……」という声の悲壮さと、ジャイアンがスイカを割る瞬間を、スネ夫としずかちゃんが大喜びする中、1人だけ絶望に表情をひきつらせながら見つめるのび太が泣けるとか笑えるを通りこして、狂気を感じさせます。

 

そこでドラえもんが「丸いものに模様を書くとスイカになるペン」を出すのですが、ここから徐々にのび太の気迫に呑み込まれていくドラえもん、着実にのび太のマッドさが伝染していきます。

さっそくペンをつくってスイカを作りのび太は人生初のスイカ割りをするのですが、なんとここでドラえもんが用意したのはビー玉のび太が振り下ろしたバットに、ビー玉(サイズのスイカ)は、スイカ"割り"というよりかは粉々に粉砕

完全にスイカ割りを理解していないとしか思えないドラえもんの仕打ちに膝から崩れ落ちるのび太のび太ですが、それを見て「やったね、のび太くん!」と飛び跳ねて喜ぶドラえもんも完全にキてます

 

こうしてのび太のスイカ割りへの執着は、着実にドラえもんを狂わせ、中盤へ突入。

 

1.2スイカ割りのためには手段を選ばないのび太

こうして丸いものを探すのび太ドラえもんですが、なかなかそう都合よく丸いものは見つかりません。「百円ショップで安いボールでも買えば」という視聴者のツッコミをよそに、ついにのび太がその本領を発揮。

 

ドラえもんの頭を両手でかかえ一言、「このくらいの大きさだったらちょうどいいのに」。

そう、この男、鉄人兵団の尖兵を撃つことさえためらった心の持ち主でありながら*2スイカ割りのために親友の頭部を粉砕しようとしているのです。

 

大長編でさえみせない、いや、短編だからこそ発揮される狂気をにじませながら、物語は中盤へ。

 

1.3介入するジャイアンスネ夫、そして結末へ

都合よくしずかちゃんから大量の風船を手に入れたのび太ドラえもん、ついに空き地でスイカ割りへ。

 

しかし、そうは問屋がおろさない。

そこに訪れたジャイアンスネ夫、その他名も無き多数の脇役たちが、スイカ割り大会をはじめます。冷静に考えれば「空き地に他人がスイカを置いていたからそれを割ろう」という発想も正常とは思えないのですが、もはや作品世界全体を支配した狂気は視聴者が疑問を差し挟む余地を残しません。

絶望に青ざめるのび太を前に次々と割られていくスイカ。子どもが楽しそうにスイカ割りをするのを、地面をはって何とか止めようとするのび太と、それを笑顔で見つめるしずかちゃん(しずかちゃんもこの狂気から無縁では決して無い)。

ついに割られつくしたスイカを前に、のび太メガネを爛々と光らせ、震える手にバットを握りながら、かすれる声で「スイカ、スイカ……」とつぶやき続けるばかり

 

他人のスイカを無断で粉砕して完食しておきながら平然としているジャイアンに猛抗議するのび太を見て、ドラえもん最高のトリックスタースネ夫がついに動きます。

もちろん、砂浜で眠っていたドラえもんのスイカ化

親友の頭部を粉砕しようとしたのび太もそうですが、友人にそうと知らせず親友の頭部を粉砕させようとするスネ夫。流石はいとこの同級生を魚雷攻撃で爆殺しようとした男の親族です*3

 

そして幸せそうにねむるドラえもん幸せそうに眠っている時点で、のび太にスイカ割りをさせる気があったとは到底思えんません)に迫り来るのび太。そして脳天に一撃が振り下ろされようとしたその時、ついにドラえもんが両手でバットを受け止め、なんとか事無きを得るのでした。

そして帰り道、ドラえもんを粉砕しようとしていたことなどまるで気にする様子なく落ち込むのび太の前にスイカをもったパパが現れて最後はスイカ割りをして終わるのですが、その辺は割愛。

 

2考察

以上が「スイカ割りにスイカペン」の概要でした。こうして見ると、このストーリーが

①くだらないことで絶望的に落ち込み、それを渇望するのび太

②その願いを、ずれた方向に叶えようとするドラえもん

③願いかなわず凶暴化していくのび太

④周囲の加担によるエスカレート

という、見事な加速ぶりをみせていることがわかります。

 

それぞれの要素を分解してみましょう。

 

まず前半、①くだらないことで絶望的に落ち込み、それを渇望するのび太にと、それを②明らかにずれた方向に叶えようとするドラえもんです。

このパターンは、マッド系短編の黄金パターンと言っていいでしょう。ヒーローになりたいというのび太にフクロマンスーツを出すドラえもん*4、よかん虫をのび太の頭にのせて煽り立てるドラえもん*5のような、のび太の夢を叶えつつも何かを引き起こさずにはいない可能性を見せてくれます。

 

そして、ひみつ道具を得て、狂気を見せるのび太

スイカ割りのためならば、ドラえもんの頭部を粉砕することもいとわないという姿勢にいはあの一話を思い出さずにはいられません。「分解ドライバー」です*6

知る人ぞ知る「なんでもいいからバラバラにしたいぞ」と笑顔で言ったのび太の精神、その片鱗を感じさせずにはいられません。

 

そして最後、それをしっかりアシストする周囲にも注目です。直ちに比較対象を出せないのは情けないところですが、ひみつ道具の仕組みを知った非のび太によるエスカレートもまた、ドラえもんの定番といえましょう。

 

3まとめ

以上、このたった10分にも満たない短編には、ドラえもん短編の若干危険な魅力がつまっていました。古いファンにとってのアニメ観賞は、ともすると「原作がどうアニメ化されたかを確認する作業」になりがちですが、今回は古いファンにとっても新しい、そして懐かしい感動(?)を味わわせてくれる放送だったと言えるでしょう。

 

今後もこのような、あるいは「水田時代の分かいドライバー」と呼ばれるような名作が登場することを祈って、このへんで。

*1:「ドラララ」は2作目にオリジナルを入れる方針のよう

*2:のび太は司令部に鏡面世界の秘密を知らせようとしていたリルルと対峙し、いつでも撃てる状況にありながら、ついにリルルを撃てず逆にリルルに「いくじなし」となじられながら電気ショックで制圧されてしまう。大長編ドラえもん (Vol.7) のび太と鉄人兵団 (てんとう虫コミックス)参照。

*3:スネ吉は、のび太ドラえもんが乗っ取り公園の池を航行していた戦艦大和のプラモデルを、2人が乗っていると知りながら魚雷発射装置付きゼロ戦ラジコンで雷撃、これを撃沈している。ドラえもん(14) (てんとう虫コミックス)参照

*4:ドラえもん (34) (てんとう虫コミックス)参照

*5:ドラえもん(12) (てんとう虫コミックス)参照

*6:単行本未収録だったため入手困難だったが、現在ではドラえもん 18 (藤子・F・不二雄大全集)に収録されている。