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『ドラえもん 新・のび太の大魔境』の感想(ニ・完)

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 前回に続いて、『新・のび太の大魔境』の感想をアップしたいと思います。

 

(今回の記事は多分にネタバレをふくみます。昨年の映画とはいえ、気になる方もいらっしゃると思いますので、ご注意ください)

 

1 総評

2 原作の再構成

2.1 バウワンコ王国パートの掘り下げ

(ここまで前回の記事に掲載)

iseyan93.hatenablog.com

 

2.2 特に印象的だった点

ひたすら挙げればきりがありませんが、今作の原作からの変更点・より掘り下げられた点で、特に気になった点を3つ紹介したいと思います。

 

(1)ジャイアンがペコを一発殴る

原作、旧作以来、『大魔境』で最も盛り上がるシーンの一つ、空飛ぶ船の爆撃に燃え上がるジャングルの中、ジャイアンがペコを追い、おそらくは「どうして来たんだ」と言うペコと口論の末に、一緒に戦おうと二人とも納得し決意するシーン。

 

元は二人とも口論に疲れてしまい、どちらともなく納得する、という感じでしたが、ここで、ジャイアンがペコを殴り飛ばす、というシーンが追加されていました。

ここには、もともと好きなシーンでただでさえ感動しているのに「そう来たか!?」という感じ*1

 

しかも、このシーンはのび太たち(ジャイアンたち、と言うべきか)とペコとの別れのシーンにも活かされていました。

 

ここで指摘したいのは、ペコというキャラクターは、歴代映画ゲストキャラクターの中でも、のび太ジャイアンの二人とそれぞれに特別な友情を持った、やや特殊な例だ、ということ。ゲストキャラクターが特に誰かと強い友情を築く場合、大抵相手はのび太であり、そうでなくても一対一対応する場合が多いと思いますが*2、ペコの場合、のび太ジャイアン、二人それぞれと強い絆を持っているキャラであり、ある意味では描きにくいキャラと言えます。

 

そこで今作では、のび太との間には「捨て犬と思って拾った時にのび太があげるソーセージ」が、そしてジャイアンとはこの一発が友情の象徴として描かれ、そして別れのシーンでもジャイアンが自分の頬にげんこつをあててから、どこでもドアをくぐって去っていく、という結末に活かされていました。

 

(2)のび太、サベール隊長との戦いで、電光丸の電源が落ちる

原作では電光丸で競り勝ち、旧作では動き出した巨神像の歯車に足をとられたサベール隊長、今回は名刀電光丸の電源が切れてなお立ち向かってきたのび太と最後の一撃を交え、勝利を確信した瞬間に動き始めた巨神像の揺れに足を取られ、寸の所でのび太に敗北。

そして「見事だっ」とのび太を讃え、その場に倒れるという、原作『宇宙開拓史』のギラーミンとの決闘並に格好いい敵役に。

 

そして、ここまでのサベール隊長の描かれ方が、これまた徹底して格好いい。

元々ペコことクンタック王子は剣の名手であり、サベール隊長がそれを警戒するという展開はありましたが、今回ではペコが王国を逃げ出すシーンで最後に戦うのもサベール、ブルススの屋敷での戦いの後を見てクンタック王子が現れたと見極めるのもサベール、そして荷台に隠れていたドラえもんたちの存在に勘付き、ひみつ道具でごまかされるも、御者台に座っていたチッポに非礼を詫びて立ち去るなど、徹底して武人としての美学を貫くキャラとして、復活していました。

 

上で述べた(1)がジャイアンとペコの友情の描きなおしだとすれば、ペコはきっといい王子になれるよと前の日の夜にペコに言ったのび太がサベール隊長を食い止める*3のは、のび太がペコのために何かを成し遂げるシーン、と言えるでしょう。そこで、元々魅力的なキャラでありながら、あまり細かく描かれることがなく、たとえば『宇宙小戦争』のドラコルルに比べて印象の薄い敵役に終わっていたサベール隊長が、今作ではのび太が成長するための強敵として立ちはだかり、そしてのび太の成長を見届け、讃え、倒れていくキャラクターとして、まさに「リメイク」されていたように思います。

 

(3)活躍したチッポ

『大魔境』のゲストキャラといえば、ペコや敵の他にはブルススやスピアナ姫が思いつきますが、今作ではチッポにしっかりと活躍の機会が与えられていました。

 

ここでも、クライマックスで王国の国民を奮起させるという重要な役回りを果たすにあたって、サベール隊長の強敵っぷりが描かれたのと同様、チッポの過去がより深く掘り下げられていたこと、そしてのび太達がペコと戦うことを決意する一つのきっかけにもなっていたことは原作からの大きな変化と言えます。

 

(4)その他+小括

他にも、ペコとスピアナ姫の恋愛の描かれ方がお洒落に掘り下げられていたり、スピアナ姫がただ囚われているだけでなかったり、「十人の外国人の残りの五人」が現れるタイミングが旧作とは違って見ている側は「まだか!?」とハラハラしたりするのですが、きりがないので省略。

 

ただ、これらの点は、主に「原作で重要だったシーンに、新たな展開を取り込み盛り上げる」「原作ではあまり描かれなかった点をより掘り下げる」という方向に大別できるのだと思います。

前者では、元々展開を知っている者にとっては期待より上の感動やドキドキを(名刀電光丸が止まった時は「のび太どうするんだ!?」となりまして)、後者もまた、今までは活かされきっていなかったキャラや展開をより深く掘り下げ、盛り上がるシーンをより深みのあるものにしていたのではないでしょうか。

 

 

3 旧作とのリンク-音楽の使い方を中心に-

2で述べたのは主に「原作をどう映像化したか」ということでしたが、ここでは同じく漫画『のび太の大魔境』を映画化した82年の映画との関係について、少し考察してみたいと思います。

 

旧作とのつながりを最も感じたのは、やはりジャイアンがペコを追いかけるシーン。

旧作なら主題歌「だからみんなで」が流れるところで、今回も劇中歌「友達」が流れ、その間キャラクターの台詞はなく、スネ夫が追いついて6人揃ったところで台詞が戻ってくるという流れ。

知っていても感動してしまいました。むしろ知っているからこそ、「だからみんなで」が流れる旧作のシーンも思い出しながら感動していてような気もします。そこからの、先に述べた「ジャイアンが一発殴る」というので、期待に応え、そしていい意味で期待をうらぎるシーンでした。

 

さて、少し深読みをすると、その後、未来から来たのび太たち4人(元の5人+ペコを率いて巨神像に入っていったドラえもんを除く)が兵隊を迎え撃つシーンで、あえて「夢をかなえてドラえもん」がBGMに選択されていたのは、旧作ではここで「ぼくどらえもん」のアレンジが流れていたことを意識していた、のかもしれません。

 

 

4 いくつか気になった点

と、ここまで絶賛してきたので、最後にいくつか、「ここはこうでも良かったのでは」という点も指摘しておきます。

 

一番気になったのは、ペコが「勝負あったようですね」というのが早すぎないか、ということ。せっかく空飛ぶ船の大編隊の爆撃でジャングルが燃え上がるシーンのインパクトが強かったので、そこまでもう少しひっぱってほしかった気がしました。

色々と深く掘り下げたために時間の厳しさに苦しんだか? という印象を受けましたが、真相はどうなのでしょう。

 

あと、個人的に気に入らなかったのは、火を吐く車のデザインと動き方。空飛ぶ船はよかったと思うのですが、どうも「ついに古代兵器を復活させた」という無骨さ、ある意味では「なんとか復活させた」ものの余裕のなさ、みたいなものがないデザインだったと思います(そんな装飾する余裕あるの?っていう)。あと、動きも少し軽々しかったような気がしました。

 

あと、たぶん意見が分かれるだろうなーと思ったのが、巨神像の動き。自分としては「アリ」というくらいの印象でしたが、きらいな人はきらいそう。

 

 

5 まとめ

というわけで、以上二つの記事にわたって『新・大魔境』について感想と、若干の考察めいたことを書いてきました。

 

前にも述べたことですが、『恐竜2006』でみせた「30年前の名作漫画を、最新の技術と、リメイクゆえに可能な全面的再構成をもって、現代の劇場アニメーションに復活させる」ということを、さらにハイレベルで実践してくれた傑作でした。

 

来年は『日本誕生』の映画化が予告されていますが、『日本誕生』が今度はどうよみがえるのかが楽しみです。

*1:一緒に観ていた人も、同じ感想を持っていた人が多かったよう。

*2:『海底鬼岩城』のバギーちゃんとしずかが代表例。他、『宇宙開拓史』のチャーミーとドラえもん、など。

*3:元々は一人だけ疲れて追いつかれたわけですが、今作ではより「追撃者をくい止める」という要素が強かったような印象を受けた。