後輩の見たF:『ドラえもん物語 ~藤子・F・不二雄先生の背中~』感想

昨年発売されて、(映画シーズンなどとは重ならなかったにもかかわらず)一時期は本屋さんで平積みされるくらい押されていた、むぎわらしんたろうドラえもん物語~藤子F不二雄先生の背中~』を、やっと読むことができた。というのは不正確で1か月くらい前に読んでいたのだが、感想をまとめられずにいた。 

 

Fについては多くの評伝や伝記が発表されているが、「アシスタント=同僚であり後輩漫画家から見たF先生」というのは新しい視点だった。今までは、同時代の漫画家仲間たちによる評伝が多かったような気がする。世代的には、「ドラベースの作者がドラえもんの作者について語る」ということ自体、少しワクワクする。

藤子F不二雄がどんな仕事スタイルで漫画を描いていたのか、アシスタントにどう接していたのかが描かれているのは、今まで見えていなかったF像で面白い。特に、むぎわらしんたろうが描いた原稿にびっしりとコメントをして返したというエピソードや、アシスタントを観劇につ入れていったりと、後輩を育てる姿は、「子ども心を失わない」Fと同時に「若手を引っ張る大人」の姿が見て取れる。

 

中でもインパクトが強かったのが、有名な藤子プロスタッフにあてた手紙*1のくだりだった。今では後輩にあてた温かいエールの言葉として紹介されることも多いが、あの手紙を受け取った当時、現役アシスタントであったむぎわらしんたろうは「どうしてそんな寂しいことを言うんだ」と、むしろショックを受けたという。伝記を読む我々はその後に待ち受けていることを全て知っているのだが、確かに、あの時あの状況で『ねじ巻き都市冒険記』の締め切りと対峙しながらあの「遺書」を思わせる手紙を受け取った藤子プロの人々は、複雑な思いだったのだろう。

 

事実として新しいことが描かれたというよりは、新たな視点で、「部分的には同時代を生きた後輩漫画家から見た藤子F不二雄」を描いてくれる伝記である。その企画がおいしいので、どうせなら2巻構成くらいにしてくれてもよかったのにとも思うのだが、後期藤子ファンにとってはとても嬉しい作品だった。